【創作小説】君の為に僕は【1話】
『あそこの家の子には近付いちゃダメよ』
小学6年生の時に母親にそう言われた。
二十六木 九姫(とどろき つむぎ)
彼女が転校してきたのは隣りのクラスだった。
だけどココは都会から離れた地域で、閉鎖的な町で、田んぼなんて普通の住宅地だから田舎とは言えないけど中途半端な寂れた地域。
小学校は1学年2クラスしかない。
そんなとこに転校してきたら、それだけで噂の的。
しかも彼女は美人だった。
目鼻立ちが端正なのはもちろん、肌は色白でスラッとした手足で、細い髪の毛が象(かたど)るロングヘアは光を透かしてキラキラして見えた。
幼稚園から見飽きた同い年の女達と違って、本気で発光して見えた。
第二次成長が始まり出した僕達男はもれなく皆、何かを刺激されたはずだ。
でも転校初日から、家に帰ったら母親はすでに九姫をすでに知っていて、キッチンで夕食を作りながら、僕に目線をおくることなく、言葉だけ僕に投げかけた。
「文典(ふみのり)、二十六木さんの家の女の子が転校してきたんでしょ?」
「え……、うん」
「ダメよ」
「え?」
「あそこの家の子には近付いちゃダメよ」
「なんで?」
「いいから。わかった?」
「……」
日頃から教育熱心で優しい母親だけど冷たい物言いにそれ以上追求することができなかった。
僕は次の日、彼女に話し掛けなかった。
他の男友達も。
もともと、男女ゆえの交流の差がある上に、クラスも別だから接点もないから、僕には自然なことだった。
しかし彼女と同じクラスの女の子達ですら、彼女に近付かなかったようだ。
後々に知る。
皆、親から言われていたのだ。
『あの子と仲良くしちゃダメよ』と。
この閉鎖的な地域で、大人の噂はすぐに小学生の耳にも入った。
二十六木の家には60代の男がもともと一人住んでいた。
その男には年の離れた妹がいる。
男とは異母兄妹、すばり愛人の娘らしい。
妹はこの町で育ったらしいが16歳の時にこの町をでていき、すぐに娘を生んだ。
それが、九姫らしい。
二十六木の家の爺さんと孫のような二人に見えるが、実際は伯父と姪の関係らしい。
男の妹で九姫の母親である女は一緒に住まないらしい。
詳しくはわからない、曖昧だが、いろいろ訳があって、九姫は伯父の養子となって、この町に来たのだ。
そんなゴシップの塊の家庭を敬遠するのは、この町ではごくごく自然な行動だったといえる。
俺は何の疑問も持たずに、何となく面倒な人間は避けるべきだと思って、親の言う事を聞いて、ただただ生活していた。
高校2年生。
彼女と同じクラスになるまでは。