【創作小説】君の為に僕は【2話】
◇◇◇◇
僕が進学した高校では学年の三分の一が同じ小学校、中学校の人間だった。
とても近くて成績も程々だから、皆そこへ進学したのだ。
スゴく頭のいい進学校か私立へ通う人間は、引っ越したり、2時間掛けて通学している。
田舎ではないといいつつ、進学先の選択が極端になってしまう、この地域。
もともと、成績の良かった奴らはずっと「この町を早く出て行きたい」と行っていた人間だから、勉強を頑張ったのだろう。
特に何も疑問も不満もなければ、一番近い公立を選ぶことが自然。
その結果が、高校でも結局あまり変わらない顔ぶれになった。
それだけ。
僕は、この町からどことなく漂う窮屈さは確かに感じているが、抵抗する程でもないような気がして、ただただ進学しただけだ。
まさか九姫も同じ高校に進学してくるとは思わなかった。
春、高校二年生。
同じ教室で九姫の背後を盗み見しながら、昼食を食べていた。
僕の視線を辿った友人・透(とおる)は同じように視線を向けたまま、声をひそめた。
「正直、俺はトドロキはそもそも高校自体進学してくるとは思わなかったぜ」
透の言葉にようやく、僕が彼女を見ていたことがバレたことに気づいて少し慌てて「え?」と曖昧な返事を返した。
もう一人の友人・松木は弁当を食べながら透に聞き返した。
「トドロキさんて、一番前の席で今一人でいる……ロングヘアの彼女?」
松木は隣りの市からやってきたから、高校では新しい顔ぶれの一人。
だから九姫を知らないことは当たり前。
「スゴい美人だよね」
だから見たままの自然な感想が言える。
透が軽く笑う。
「そうそう、アイツの婆さんがすっごい有名なキャバ嬢で、母親もまた都会で水商売だって美人なんだって」
「へぇ〜」
「そんで、その母親は結局は男に騙されて借金まみれ。そんで面倒見きれなくてこの町のジーサンに引き取ってもらったって」
「あ……すごい訳アリなんだね……」
「だから高校進学せずに働き出すんかと思ったね、俺は」
この町の人間ではない松木だけど、九姫と同じ出身校の人間はこの学校にたくさんいるわけで、彼女の事情は筒抜けだ。
こうした状況がおそらく一年の時からあって、違う出身校の人間にも彼女の訳アリを大体知っている。
だから高校生になっても彼女は一人だった。
2年になって初めて同じクラスとなった松木は初めて彼女の話を聞いたみたいで、あまり実感のない顔をしていた。
「でもすごい美人だよね。初めて見た時、儚い感じでキラキラして見えた」
松木は九姫を見ながら少しだけねちっこい溜め息を吐いた。
僕は松木の肩を叩いた。
「……好きなったら最後、きっと大変だよ」
「へぇあ!?好き!?……いや別にそこまで」
松木が変な声をビックリしたが透も頷いた。
「そうそう。中学の時にアイツの見た目に釣られて、ヤリたいっていうちょっと不良の先輩が近付いたんだけど」
「う……うん」
「アイツん家のジーサンに半殺しされたって」
「えぇっ!?」
中学の時で有名な話だ。
学年が違ったからか、『関わるな』という親の言う事を聞くこともバカらしいと反抗期の年齢だったからか、一時期は九姫に男が群がっていた。
しかし、仲良くなって自分の家に連れ込むと自分の親達に拒否をされ、次に彼女の家へと入ると二十六木の爺さんに暴力を受けたという。
「包丁を振り回したとか、実際に骨を折られたとか、頭をぶつけたせいで失明したとか。結構やばいよ」
「それ普通に傷害事件でしょ?トドロキさんのお祖父さんは訴えられたりとか無かったの?」
青ざめる松木に僕は首を振った。
「この町では古くから2年に一度行われる祭り、『賢宮祭(けんぐうさい)』ってのがあるんだ」
「あ……あぁ、知ってる。中学の時に遊びに来た事がある。それがトドロキさんと関係あるの?」
「『賢宮祭』は由緒ある行事だし、この町の収入チャンスでもあるから、結構重要視してるんだけど、トドロキの家は毎回多額の寄付金を入れてるから」
「……」
「親世代は皆逆らえない。目をつけられるのも困るからひたすら避けるしかないんだ」
松木は俯いてお茶を飲んだ。