【創作小説】こんとんのはな【第3話】
◇◇◇◇
「日下さんの家はお店をしていたんだね。初めて知った」
生徒会室には役員の三人しかおらず、いつも学校と比べて静けさが増している。
そんな中、コピーを取りながら洋は花寿美に言ったが、先に答えたのは天音だった。
「そっか、錨(いかり)くんはこの春からこの街に引っ越してきたから知らないよね。ここじゃ結構有名なお店なんだよ。『花一堂』。支店もあってさ、都会の方に」
「うん、家族はそっちの方にいるの」
「じゃあ、日下さん……あのお店で一人で暮らし?」
またも天音は花寿美が答えるより先に笑顔で答えた。
「うぅん、さっきの店員のエンジュさん……えっと、親戚の伯父さんとかだったけ?今は二人と同棲なんだよね〜、花寿美〜」
何故かニヤけながら代わりに説明する天音を花寿美は不思議に思った。
しかし説明の手間が省けて助かったし、説明出来る真実もほんの一握りだから、花寿美は否定も肯定もせずに黙々と備品の整理をする。
「格好良いよね〜あの人!!会う度いっつも褒めてくれて……和服が似合う感じなのに紳士的でさ!あんなに格好良くて優しい伯父さんなら私も同棲したぁ〜い!!」
「……でもあの人、俺のことはガン無視だったけど?」
「それは錨くんが花寿美を見る目がイヤらしかったから敵認定されたんじゃない?」
「え!?見てないから!!日下さん!!見てないからね!!」
焦ったようにそう言う洋に天音はそう言ったが初対面だったはずの洋の言う通りで、優しいのは『女』限定である槐のあからさまな態度に花寿美は心の中で呆れた。
そもそも同棲というには語弊を感じる。
同じ敷地ではあるが、メインの生活は違う建物で過ごしているし、祖母が亡くなる数年前は三人で暮らしていた。
そして伯父と言ったが、実際は祖父以上の年齢でも通るのではないだろうかと思った。
そういえば彼の実年齢を知らないなと思いながら花寿美は欠伸をもらした。
「花寿美、寝不足?」
「あ……ごめん、大丈夫だから」
子供の時から色々な夢を見た。
悪夢を見て、恐怖を覚えるようになったのは祖母と暮らすようになってから。
その時から槐は祖母の元で働いていた。
子供の時から色んな夢をたくさん見ていたが、ここ最近は特に悪夢を見る頻度がひどい。
槐曰く、感情をあまり面に出さない分、夢になって出てくるらしい。
大人になるにつれ、悪夢をハッキリと思い出せないのに、恐怖が増すようになっていった。
「日下さん、体育祭本番もたくさん走り回って仕事してたからね。終わった今になって一気に疲れがきたのかな……今日も休んでくれて良かったのに。生徒会長には俺から言っておくよ?」
「お〜、さすが錨くん。花寿美には優しいね」
「さっきから含みのある言い方しないでほしい」
二人が心配してくれていることがわかったが、花寿美は首を横に振った。
「ごめん、本当に大丈夫だから」
『悪夢を祓う霊獣である獏と暮らしているから大丈夫』とは、正直には答えられないから苦笑するしかない。
悪夢を見た時はいつも槐がフォローをしてくれている。
だから心配はいらないはず。
しいて言うのであれば、『あの方法』に慣れないことぐらいだ。
しかし……
その槐に何度祓ってもらっても出てくるあの悪夢は
一体何なんだろうかと花寿美は時々考える。