駿心の小説置き場あれこれ

創作した物語を綴ったり、好きな作品を呟いたり(未定)

【創作小説】こんとんのはな【第14話】

 

「そうだね。そんなにその姿でいることが苦痛なら俺が消してあげるよ」



洋が右手に黒い炎を発火させて、人のモノではない強固な褐色の魔物の手に戻す。

 

洋のその手は槐の胴体めがけて突き上げる。





両手を広げた花寿美が槐の前に立ちはだかった。



「———っおじょ…」



突然のことに槐は咄嗟に花寿美を抱き、寸での所で洋の炎を一緒に躱(かわ)した。

 

洋は勢いを止められず、壁を壊して体ごと、そのまま突っ込んだ。

 

散乱して飛ぶ木の板の破片から槐は花寿美を庇った。

 

槐は慌てて花寿美が無事であることを確認する。



「貴女は一体何をして……!!」



ぎりぎりの出来事に槐は脈が乱れて、つい大声が出たが、震える花寿美を見て噤(つぐ)んだ。



まだ恐い。

 

人間の世界では有り得ない姿の見慣れない異形な生物。

 

ある種、神として正しい畏怖を表す姿。

 

刷り込まれた恐怖に体の震えは止まらない。

 

だが、流れている涙は決して恐怖からだけでない。



「槐」



獏の鼻を抱き、その皮膚に涙を染み込ます。



「ごめん、ごめんね……ごめんなさい」



花寿美がいつも見ていた化け物の姿は、悪夢ではなく……『悪夢を祓ったあと』の槐の姿だったのだ。

 

一体どんな恐ろしい夢を見ていたのかは知らない。

 

覚えていない。

 

それはきっと槐が守ってきていたから。

 

しかし守ってもらった後も幼い頃のトラウマに怯えて、助けてもらっても泣くばかりだった。

 

そんな守り甲斐がない、やるせない事なのに、槐はそれでも繰り返し守り続けてくれていた。



「……女の子に手を出しただなんて、よく言うわ……馬鹿じゃないの。私を守ったせいじゃない」

 

「………………嘘は言ってません。お嬢は女の子です」



赤くて熱い獣は花寿美を優しく抱きしめて、目を閉じた。



花寿美は流れる涙を拭うことなく槐を濡らした。



「ありがとう……槐、ありがとう」



ありがとう

 

ありがとう

 

いつもありがとう



ずっと言えなかった言葉がようやく言えた。



「……お嬢」



破壊された壁の穴から崩れる音と煙の中から、洋が姿を現す。



「——っふざけるなよ、化け物が」



槐がゆっくりと目を開けた。

 

その目が悪魔を捉える。

 

 

「……調子に乗るなよ?」



毛が逆立つと同時に空間が歪んだ。



「俺は確かに元妖怪の成り上がりだが、お前が下級悪魔で、俺が神であることに変わりないだろ」



獣の体が光り出すと、圧も上がる。



「神が大事にしているものに手を出すなんて罰当たりなことをしやがって……覚悟は出来てるんだろうな?」




傍にいる槐の気迫に花寿美が先に参ってしまいそうだった。

 

その気配に槐は気づき、優しく微笑んだ。



「……お嬢……少し目を閉じててください」



槐は花寿美の目を隠した。



「一瞬で終わらせますから」

 

 

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